プロフィール
学名 | Aquila chrysaetos japonica |
英名 | Japanese Golden Eagle |
和名 | ニホンイヌワシ(狗鷲、犬鷲) |
生息地 | 北海道、本州、四国、九州の島峭部を除く山岳地域 |
行動圏 | 21-237平方キロ (平均 61平方キロ) |
大きさ | 体長:75−85cm、翼開長:175−200cm、体重:3−5kg |
食性 | ノウサギ、ヤマドリ、ヘビ、キツネ、テンなど |
繁殖期 | 2月頃産卵、通常2羽ふ化するがほとんどは1羽のみ5〜6月頃に巣立つ |
イヌワシは勇壮で力強く、孤高かつその美しい姿のために、 古くはローマ時代から権力の象徴として王家の紋章や部族のシンボルとして広く用いられてきました。 日本各地に伝わる天狗伝説は山里に生きる人々が自然界への畏怖心から創り出したものであると考えられています。 したがって古くからイヌワシと人との交流があったことがうかがわれます。
イヌワシは1950年代までは日本アルプスなど極く限られた場所にだけ生息するものと考えられていましたが、 近年の当研究会などの調査により日本各地に生息していることがわかってきました。
現在、日本で生息が確認されているイヌワシは約500羽です。 しかも多くの生息地は近年の大規模な開発、森林伐採、単一樹種による大規模な植林などにより大きく変化してきています。 そのためイヌワシの食物となる動物であるノウサギやヤマドリの減少を招きました。 さらに密猟や環境汚染物質の影響などによって、イヌワシは絶滅の危機に追いつめられています。
ニホンイヌワシ
スーフォールズ、SD新しい紙の死亡記事
イヌワシはその分布域における森林生態系における食物連鎖の頂点に位置する種です。 そのため自然が豊かな場所にだけ生息することができる鳥です。 言い換えれば、イヌワシの生息する場所は自然が豊かで、人間にとっても生きていく上で大切な環境であると言えます。 このためイヌワシの生息状況は、地域の環境の状況を私たちに的確に示してくれる指標となっています。
イヌワシは国民共有のかけがえのない生物であり、次の世代に引き継いでいかなければならないすばらしい自然資産です。 イヌワシを保護管理し自然環境のバランスを守っていくことは、私たち国民の責務だと思います。
名前の由来
イヌワシという名前の由来には諸説があります。 生きものの名前を冠に付けるのにはそれなりに理由はあるようですが、 今のところ以下のような説が挙げられます。
- 天狗のモデルがイヌワシ説。和名では狗鷲と表記する。
- 「いぬ」はより下を意味するものであり、より大きい大鷲(オオワシ)などに比べて下の意味で付いた。
- 逆に「いぬ」は大きいものを現す言葉であり、大きい鷲という意味で付いた。
- 鳴き声がイヌのようだから。→幼鳥の鳴き声♪※1
さて、名前の由来について皆さんはどう思われたでしょうか。
- ※1 ブラウザの設定によっては新規のウィンドウが開かれる場合があります。
イヌワシの生態
イヌワシはつがい(ペア)ごとにテリトリー(なわばり)を持ち、1年中その中で生活しています。 ペアのテリトリーの広さは地域や環境によって違いますが、平均で約60平方キロメートルです。 日本では、最近繁殖が確認されたばかりの北海道から九州まで生息しています。 近年繁殖が確認されているのは、北海道から中国地方までです。
イヌワシのペア
エドワード滝
現在確認されている生息数は約192ペア(2005年日本イヌワシ研究会※1)で、 若い個体や単独の個体を合わせた最小推定個体数は約400羽(※2)程度です。 文献や古老の話を総合すると、昭和の半ばごろまでは現在の2倍以上の数のイヌワシが生息していて、 私たちのもっと身近な所にもいたと考えられています。
- ※1 詳しくは本会機関誌の第21号をご覧下さい。
- ※2 H16年環境省発表では推定個体数650羽としています。
世界の生息分布
イヌワシは北半球を中心に5亜種が生息しています。 その多くはステップやツンドラ、それに森林限界付近など開けた地域に見られますが、 日本のイヌワシのように森林に覆われた地域で生活する亜種もいます。
世界のイヌワシ
国内の生息分布
イヌワシの生息分布図(クリックで図を拡大)
日本のイヌワシは北海道から九州の山岳地帯に生息しています。 北海道は1994年の当会合同調査において、日本で初めて繁殖個体群の存在が明らかになりましたが、具体的な生息数などはまだよくわかっていません。 四国は過去に生息の記録はありますが、近年はその存在が確認されていません。 中国地方は東部で繁殖しているペアがいますが、西部では近年の繁殖記録はありません。 九州は現在1ペアしか確認されておらず、繁殖行動は観察されますが、近年まったく幼鳥が巣立っていません。 比較的生息数も多く、繁殖状況も安定していると思われていた中部山岳地帯以北でも、餌不足や開発など人為的な影響などによって徐々に生息域が狭まってきています。
希少猛禽類調査(イヌワシ・クマタカ)の結果について・・・環境省HP(※1)
- ※1 平成9年度から、環境省、経済産業省、国土交通省が実施(林野庁協力)した希少猛禽類調査(イヌワシ・クマタカ)の結果概要。
国内の現状
フォールズチャーチ犬公園
日本に生息するイヌワシは世界中に生息する5つの亜種のなかで最も小型ですが、 それでも体長は75-85cm、翼を広げると175-200cm、体重は3-5kgもあります。 こんなに大きな鳥ではありますが、野外でその姿を見ることはまれで、 年々その数が減少してきていることもあって、 バードウォッチャーでもその勇姿を見た人は少ないようです。
天然記念物同士の出会い(右下はニホンカモシカ)
古くは国の天然記念物、近年は国内希少野生動植物種(国内で絶滅のおそれのある種)、 レッドデータブック絶滅危惧TB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種)などに指定され、 法律上では保護されている鳥ですが、その生息地の保護は依然として進んでいません。
1981年〜2010年(クリックで図を拡大)
日本イヌワシ研究会では1981年の設立以来、 毎年全国のイヌワシの生息状況や繁殖状況を調査してきました。 繁殖成功率(巣立ちまでいったペア数/調査ペア数)は年々下がってきています。 特に1991年以降の落ち込みがひどく、ほとんどが20%台になっています。 1997年には一時17%台にまで落ち込み、その後1999年と2001年には30%程度に回復しましたが、 2000年と2002年にはついに15%台にまで落ち込みました。
これらの数値は日本のイヌワシが依然絶滅の危機にあることを物語っています。
生息・繁殖状況調査の報告
減少の要因
これまでの日本イヌワシ研究会等の調査によって、日本に生息するイヌワシの減少の要因は次のように考えられています。
- 食物不足:ノウサギ、ヤマドリなどの減少。
- 生息環境の悪化:生息地でのダム建設、大型リゾート開発、スキー場の騒音、高圧送電線の鉄塔建設、それに大規模な人工造林など。
ノウサギは地域によっては減少傾向が認められる
保護の必要性
なぜイヌワシの保護が必要なのでしょうか?
自然界の生態系のバランスは様々な生物が生息してはじめて保たれます。 イヌワシはクマタカなどと共にその分布域の森林生態系における食物連鎖の頂点に立ち、 生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たしています。
食物連鎖
言い換えるとイヌワシが生息できる森林は豊かで生態系のバランスのとれた環境であるのです。 地球環境全体を見つめ、人類の将来を考えると、 イヌワシを含む野生動物をその生息環境と共に守っていくことは私たちにとっても大切なことです。
保護の取り組み
環境省・希少野生動植物保護増殖事業(イヌワシ)について
1994年、環境省がイヌワシ保護増殖基本計画策定を行い、 日本イヌワシ研究会が環境省に対して具体的な保護施策を提言しました。 そして、1995年に環境省はイヌワシをはじめとする希少野生動植物保護増殖事業をスタートさせました。 イヌワシに関するその主な事業は次のとおりです。
- 繁殖阻害要因の現状とその分析
- 巣の点検および補修
- 死亡原因調査と残留環境汚染物質の実態調査
- ヒナの移入事業(里子作戦)
これらの事業は、環境省から(財)日本鳥類保護連盟に委託され、 2002年度以降は、日本イヌワシ研究会のメンバーが個人の判断でワーキンググループに参画しています。
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