2012年5月14日月曜日

Cottage Window:コソボ紛争報道に多用された英語


これは平成11年7月に書いたものです

 ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナでの民族紛争が解決の方向に向かい始めたのもつかの間、新ユーゴスラビアのコソボ自治州でセルビア人によるアルバニア系住民に対する迫害が激しさをまして行った。ランブイエ会議での西ヨーロッパ各国の努力も空しく、ユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領は和平案を受け入れないまま大規模な民族浄化作戦を準備し始めた。その民族浄化作戦が展開され始めた3月24日、NATO軍によるセルビア空爆は始まった。NATO軍のセルビア空爆は約3ヶ月続き、ミロシェビッチ大統領が、軍、警察をコソボから引き上げ、NATO軍がコソボに進駐することを認めて終結した。

 各国の治安維持部隊がコソボに進駐するにつれ、350人を越える規模の大量虐殺の被害者が埋められているのが発見されるなど、セルビア軍、警察のアルバニア人迫害の実態が次々に明るみに出ている。また、アルバニア人難民の帰還が始まると、アルバニア人の仕返しをおそれたセルビア人住民のコソボ脱出も伝えられたが。セルビアにいる国民にはコソボの現実をひた隠しにし、NATOに対して勝利して戦争が終結したと宣伝するミロシェビッチ大統領は、コソボの実態が明るみに出るのをおそれてこれらのセルビア人のセルビア入りを拒み、コソボに追い返された人々は難民化しているという。また、ロマと呼ばれるジプシーが、セルビアに協力的だったとしてアルバニア人によって迫害される事件も相次いでいる。
 コソボ問題を巡って、悲惨な現実を伝える陰鬱な言葉がメディアにあふれた。以下に、そのいくつかを取り上げてみたい。

 空爆開始数日後に墜落したF117ナイト・ホーク隠密戦闘爆撃機乗組員の救出を報道したタイムズ紙は、3月29日付の「バルカン戦争:セルビア軍を爆撃/コソボ難民大量流出阻止へ/隠密機乗組員救出劇」と題された記事によると墜落したF117Aナイト・ホークの乗組員は、墜落から6時間後には救出されていた。また、NATO軍はコソボ全域と、北緯44度線以南をセルビア軍排除地域に設定し、空爆を劇的に拡大した。この記事はコソボのアルバニア系住民にたいしセルビア軍が焦土作戦を展開していることにふれ、出来るだけ多くの人命を救うため、NATO軍は一種の時間との戦いを行っ� ��いると述べたNATO報道官の言葉を伝えている。


WHOは、最近復活された閣僚です。

 以下に関連部分を抜粋し、和訳を付し、若干の解説をする。

Refugees pouring out of Kosovo into Macedonia and Albania were reporting widescale atrocities and the Nato spokesman Jamie Shea said that more than half a million Kosovans - a quarter of the population - were believed to be homeless as Serbian forces accelerated a scorched earth policy. They included Ibrahim Rugova, the political leader of the Albanian Kosovans, whose house had been burnt. He was now in hiding.

Up to 10,000 people, many of them women and children, had been forced into Albania yesterday, with Serbian forces stripping many of their identity papers and car number plates, Mr Shea added.

"We are on the brink of a major humanitarian disaster, the like of which has not been seen since the closing stages of World War Two. The truly horrible reports of violence against the Kosovo population meant that Nato was in a type of race against time to save as many lives as we can."

Javier Solana, the Nato Secretary-General, said the aim of the second phase of operations was to halt the ethnic cleansing being carried out by Serbian forces in Kosovo.

US Air Force A10 tankbusters are expected to be in the forefront of bombers targeting Yugoslav tanks, artillery and other armoured vehicles which fail to leave Kosovo.

George Robertson, the Defence Secretary who said that the Serbs were "intent on genocide", announced that Britain was sending 13 more aircraft to the region. Four more Harrier GR7s flew off yesterday from RAF Wittering in Cambridgeshire to join the eight already based at Gioia del Colle in Italy. Eight Tornado GR1 bombers from RAF Bruggen in Germany have also been ordered to prepare for operations over Yugoslavia. An extra TriStar tanker is also being sent from RAF Brize Norton in Oxfordshire.

The Government has also given permission for more B52 bombers to be deployed to RAF Fairford in Gloucestershire, although the Pentagon would not say how many more would be sent there. The need for more B52s, which can launch their cruise missiles from more than 500 miles away from the target, is partly because of the poor weather that has forced other Nato bombers to abort their missions.

Yesterday air raids were reported in Belgrade, Nis and Kragujevac. A Yugoslav Army source said that missiles fired at a military airport in Montenegro hit a Mig21 fighter and an army vehicle, while the Kosovo Liberation Army's news agency said that Nato aircraft had attacked a Yugoslav Army column in Kosovo, destroying four tanks.


兵士を検索する方法

[和訳]
 コソボからマケドニア及びアルバニアに流出している難民は大規模な残虐行為があったことを伝えており、ジェイミー・シェイNATO報道官によるとコソボ住民全体の4分の1に当たる50万人がセルビア軍が焦土戦術を激化させるのにともない、家を失って難民になったと考えられている。その中にはアルバニア系コソボ住民の政治的指導者で、家を焼かれたイブラヒム・ルゴヴァ氏も含まれている。ルゴヴァ氏は現在地下生活を送っている。

 多くが女性と子供からなる、1万人に及ぶ人々が昨日アルバニアへ行くことを強制され、その際セルビア軍は身分証明書や車のナンバー・プレートの多くを奪ったとシェイ氏は付け加えた。

 「我々は、第� ��次世界大戦末期以来目撃されたことがないような重大な人道上の大惨事の瀬戸際にいる。コソボ住民に対するまことに悲惨な暴虐の事実はNATOが、できるだけ多くの人命を救う、一種の時間との戦いを行っていることを意味している。」

 作戦の第二段階の目的はコソボに於いてセルビア軍によって行われている民族浄化をやめさせることだとハヴィエ・ソラナNATO事務総長は語った。

 コソボから出て行かないユーゴスラビアの戦車、砲兵隊その他の機甲部隊を標的とする爆撃の最前線にアメリカ空軍のA10戦車攻撃機が投入されることが予想されている。

 セルビアは「民族殲滅を目指している」と言ったジョージ・ロバートソン国防相は、当該地域に更に13機の航空機を派遣すると発表した。既にイタリアのジョイ ア・デル・コッレに駐留している8機に合流するため、4機のハリアーGR7がケンブリッジ州のイギリス空軍ウィタリング基地から昨日飛び立った。ドイツのイギリス空軍ブルッゲン基地からの8機のトルネードGR1もユーゴスラビアに対する作戦の準備をするように命令されている。更に1機のトライスター空中給油機が、オックスフォード州のイギリス空軍ブライズ・ノートン基地から派遣されているところである。


モンタナ州グレートフォールズの天気

 政府はB52爆撃機をグロスター州フェアフォードにあるイギリス空軍基地へ追加展開する許可を与えたが、アメリカ国防総省は更に何機が派遣されることになるのか明らかにしていない。目標から500マイル以上離れたところから巡航ミサイルを発射できるB52が更に多く必要になった理由の一つは、NATOの爆撃機に任務を中止することを余儀なくさせた当地の悪天候である。

昨日ベオグラード、ニシュ、クラグエヴァチで空襲があったと報道された。ユーゴスラビア軍筋によると、モンテネグロの軍飛行場を狙って発射されたミサイルがミグ21戦闘機と軍の車両に命中したという。一方コソボ解放軍(KLA)の通信社によるとNATOの航空� ��がコソボのユーゴスラビア軍の隊列を攻撃し、戦車4両を破壊したという。

1.Race against time: 時間との競争

 日本語にも「時間との戦い」という表現があるが、それはこの表現の和訳かもしれない。Oxford English Dictionary Second Edition の"time"の項に次のような説明がある。

against time, in competition with the passage of time; so as to finish one's task before the expiry of a certain period. (時間の経過と競争して、ある期間の終了の前に自己の任務を終わらせることが出来るように)
 英語の表現では "against time"が意味のまとまりをなしているので、用例も次のように"against time"の前には様々の動詞が用いられている。

to write against time (時間と競争で書く)
[To] walk against time (時間と競争で歩く)
to work against time (時間と競争で仕事をする)
to speak against time (時間と競争でしゃべる)
しかし、"against time"の前に用いられている名詞と言うことになると、"race"以外に見つからない。 Kenkyusha's New Japanese-English Dictionary Fourth Edition Revised and Enlarged には「時間との競争」として"race( battle ) against time"と記載されているが、"battle against time"という用例はOEDには載っていない。OEDにないから"battle against time"という用法がないということにはならないが、実際どの程度使われるものかは疑問である。

2.Scorched Earth Policy:焦土戦術


 意外なことにこの表現は中国語の「焦土」の英語訳が定着したものである。日本軍の侵略を受けた中国国民党・共産党は「堅壁清野(焦土)」と名付けられた戦術を持って抗戦した。それを報道した文章の中に、「焦土戦術」の英訳として"scorched earth policy"なる表現を用いたのが最初のようである。ヨーロッパではナポレオン軍の侵略を受けたロシア軍が同様の焦土戦術をとって、ナポレオン軍に退却を余儀なくさせたことがよく知られているが、そこからはそのような戦術の名前は生まれなかったらしい。OEDに次のような記載がある。

scorched earth: used attrib. of a policy of destroying all means of sustenance or supply in a country that might be of use to an invading enemy, or of orders, operations, etc., designed to effect this policy; also transf. and fig., and absol.
Apparently a translation of Chinese jiaotu/plain (zhèngcè/plain ) scorched earth (policy). (侵入してくる敵に利用される可能性のある全ての施設や物資を破壊する戦術または、このような戦術を実行に移す命令、作戦;また比喩的に。明らかに中国語の「焦土(清野)」の翻訳。)

1937 C. McDonald in Times 6 Dec. 12/2 The populace..are still disturbed, in spite of official denials, by wild rumours of a 'scorched earth policy' of burning the city before the Japanese enter. (日本が侵入してくる前に町を焼き払う「焦土戦術」の噂があり、それは公式に否定されてはいたが、民衆は不安になっていた。)

3.Ethnic Cleansing:民族浄化

 Money laundering (資金洗浄)などと同じく、日本語はこれらの英語表現の翻訳と思われるが、クレンジングとかクレンザーなどは化粧品や台所用品としてなじみがあり、身近な言葉がこのように使われると具体的なイメージがあって凄みがある。

4.Genocide:大量殺戮、民族殲滅

 Genocideはgeno-と-cideからなる。
 geno-はg²nos(ギリシャ語:英語のraceにあたる)の連結形で人種の意味。
-cideはcidaまたはcidium(ラテン語:英語のmurder of;caedere to kill )。

-cideの入る語は他にhomicide(殺人)がある。
homi-はhomo(人間)から。
 主人公コロンボが聞き込みに行って、たいてい"I'm Columbo, L.A.P.D Homicide.(ロサンゼルス市警殺人課のコロンボです)"と自己紹介するテレビ番組『刑事コロンボ』でおなじみである



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